MUI

思い描くユーザーインターフェイス

タコの心身問題を読んで

『タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源 ピーター・ゴドフリー=スミス』
こちらの本の要約と解釈、UIデザインへの思い描きです。比較心理学から主観的経験と認知を理解するアプローチとして読み始めましたが、意外な感想へ帰結しました。

タコの不思議

ヒトとは全く違う進化を辿り、ヒトを含む脊椎動物とは異なるつくりの心身をして、頭脳的な精神活動…“心”を持ちながら2年程度の寿命だという、くにゃくにゃの頭足類、タコ。我々脊椎動物は頭にある脳にニューロンという神経細胞が集まっているが、タコはニューロンが密集している部分が身体中にある。タコは脳と身体の区別がなく、自分の腕は自己であり他者でもある。腕で味わって腕で考える。ちなみに心臓は3つある。

精神機能の内面化

進化史上重要な内面化が二つあった。
内面化とは、他者とのコミュニケーションのためにつくられた機能が、自己とのコミュニケーションに使われるようになることを指している。

一つめは単細胞生物から多細胞生物になって、外界を感知し外界に何かを発する道具として神経系が生まれたとき。神経系を持つようになり、感覚から外界の情報を入力されると、これを行動として出力するループができた。そうすると今度は、自分の行動によって外界が変化したときに「これは自分の行動が原因で起きた結果だ」というフィードバック(再求心性情報)をただしく得られなければならなくなった。

しかしフィードバックは行動の直後に起こるとは限らない。自分が外界に起こした変化の結果を、あとから確実に知覚できるようにしたい。時間経過への対策をしはじめた。現在の自分の行動と未来の結果を確実に結びつける再求心性ループを持つようになった。簡単にいえば自分にメモを残すこと、外部記憶をつくることだ。
重要な内面化の二つめは、言語が思考の道具として使われたときである。

インターフェイスと外界

外部記憶をつくり、身体をつかい、絵や文字を開発したことがアートの起こりにあたるのではないだろうか。そのうちことさら未来の知覚、計画のための行動をデザインと呼べるのではないだろうか。

感覚からの入力と行動という出力、それによる結果のフィードバックが、人間の神経機構(ユーザーのメンタルモデル)によってただしく知覚できれば「これは自分の起こした結果だ」という自己帰属が成立しループになる。
いまや我々は自分と直接の外界だけでなく、PCやスマートフォンという道具を使って次元を超えた外界(システムの内面世界)をもループに入れている。ユーザーインターフェイスは人間に、位置も時間も次元も超えた知覚を与えている。
このループのふくらみと外界の延長が精神機能の複雑化史上、デジタルデバイスが自己の能力の一部となり心身化するという意味で、第三の内面化にあたるのではないだろうか。デザインはまさにこれをやろうとしているのではないだろうか。

最後に…タコへ。 大規模な神経系と高度な知性を持ち、好奇心旺盛でいたずら好きで、ありえないほど寿命の短いあなた。あなたを想うと『アルジャーノンに花束を』を読んだあとのように切なくてなりません。